掲載は8本。
今月は福岡に行ったついでに、何本かの九州酒を購入。
そのせいか、飲んだ本数が多くなってしまった。
色々な種類の日本酒を飲んで、最近思うのだが、イマイチなお酒って本当に少ない。みな旨いのだ。
紙パックの酒はともかく、特別な酒じゃなくても良いので、せめて純米酒を飲んでみて欲しいと思う。
瓶に入っていて、容易に手に入る純米酒でいい。
辛口、甘口。
苦い酒、酸い酒。
コクのある酒、水のような酒。
いろんな酒があるが、どれも旨いのだ。
何かと誤解が多い日本酒だが、この旨さを、この思いを、何とか多くの人に伝えたいな。
(評価は星の数で、なし~★★★★★まで。評価基準は個人の好みによる)
千代むすび 純米吟醸 強力米 ★★★★
鳥取県境港市 千代むすび酒造 720ml 1575円 大和屋酒舗@中区胡町
水木しげるロードや蟹で有名な境港市にある千代むすび酒造。
ロード沿いには千代むすび酒造岡空本店というショップがあり、蔵はその裏にある。
明治時代は岡正宗・大和魂という銘柄だったが、昭和の初期にはメイン銘柄を「千代むすび」に変更し、現在に至る。
なお銘柄名には「千代に八千代に契りを結ぶ」という意味が込められているそうだ。
使用されている酒米は「強力」で、これについては2012年9月の記事のいなば鶴の項を参照の事。
幻の米と言われる品種を復活させる動きはいくつかあって、広島にいると「亀の尾」や「穀良都」という酒米の酒を飲む事があるが、「強力」はこれらと比べても飲み応えがあり、僕の好みの米の一つだ。
本酒はふらりと立ち寄った大和屋で購入。
千代むすび自体は2度ほど飲んだ事があるはずだが、味の記憶がなかったため購入した次第。
香りは穏やかで、やや酸味を感じさせる。
実際に飲んでみると、米自体の甘みと酒自体の辛みが拮抗していて、なかなか面白い味わいだと感じた。
先月飲んだ「いなば鶴」ほどグラマラスではないが、強力の芯の強さを感じる旨い酒だ。
これが熟成したらもっと旨くなるように思うのだが、相変わらずこらえ性ではないので、すぐになくなったのはここに書くまでもない。
櫻室町 純米吟醸 備前幻 ★★★
岡山県赤磐市 室町酒造 720ml 1,365円 フレスタ@佐伯区海老園
酒造開始は1688年(元禄元年)の頃と言われている室町酒造。
歴史を遡ると当家の始祖は戦国自体の頃に生きた花房正幸と言われ、宇喜多氏の下で水軍的な働きをしていたとの事。
江戸時代の天保という元号の頃。
当地を治めていた池田藩の財政が貧窮し金を貸したそうで、池田藩はその返済を米で行い、その米を使って酒造を始めたそうだ。
1890年代には分家筋が酒造を手がけるようになったことで花房本家酒造と名乗るようになった。
余談ではあるが、この時代のメイン銘柄である「室町」は三越の手印、今で言うプライベートブランドとして取引があったとの事。
三越所在地が日本橋室町であることと関係があるのかもしれない。
その後、紆余曲折を経てメイン銘柄を「櫻室町」と改め、1951年(昭和26年)には称号を室町酒造に変更し、現在に至る。
本酒は当ても無く立ち寄ったフレスタで見つけて購入。
月に一度は訪れているが、何かしら新しい銘柄が置いてあり、バイヤーの開拓意欲には感心している。
さて本酒は、開栓直後の一杯目は甘さが立つ味わいで、おやと思ったが、二杯目からは低音域の米の旨味と仕舞の辛みが目立つ味わいに。
なかなか旨い辛口酒だ。
大信州 極寒ひやおろし ★★★
長野県松本市 大信州酒造 720ml 1,155円 石川酒店@西区古江西町
大信州酒造は、長野県のほぼ中央に位置する松本市にある。
西の飛騨山脈(いわゆる北アルプス)と東の筑摩山地に囲まれた盆地で、冬の早朝は市街地でもマイナス10℃を記録するほどの寒さだ。
松本市は国宝松本城の城下町として栄え、現在では信州大学本部、日本銀行松本支店、FM長野本社などがあり県庁所在地の長野市に引けを取らない街となっているそうだ。
余談ではあるが、県庁所在地ではないのに国立大学があるのはここ松本市と青森県弘前市(弘前大学)、沖縄県中頭郡(琉球大学)、広島県東広島市(広島大学)のみとなっている。
大信州酒造は1888年(明治21年)の創業。
最近まで名物杜氏の下原氏が酒を醸していたが現在では監修役の大杜氏となられ、後任の杜氏には小林氏が就任されたとの事。
北アルプスの伏流水、長野県産の酒米、小谷(おたり)流杜氏の技の融合により酒を醸しているそうだ。
本酒は佐伯区五月が丘にあるマルフジというスーパーで買った刺身に一手間加えた鯛茶漬けやスズキのカルパッチョと合わせる酒として購入。
濃醇タイプではない方が良いと思い、店員と相談して購入を決定した次第。
開栓直後はバニラのような香りが僅かに漂う。
口に含んでみると、上質な吟醸酒から米の旨味を少し引いたような味わいが感じられ、なかなかに旨い。
しかし、開栓から2時間の間に味が変化していき、初日の最後には辛みと苦味が目立つ味わいとなった。
槽口から垂れた純米原酒 ★★
山口県下関市 下関酒造 720ml 1,200円 酒庵「空」@山口県下関市
下関酒造がある下関市は、ふぐで全国的に有名な街。
北は橋の袂からの絶景が知られる彦島があり、中間部には川棚温泉、南端には関門海峡を抱え、山口県一の人口規模を誇る。
山口銀行や山口新聞は本社を、日本銀行は支店を県庁所在地の山口市ではなく下関市に置いている。
創業は1923年(大正12年)。
酒蔵は、その地域の庄屋や地主などの富裕層が立ち上げる事が多いが、ここは「自分たちの作った米で酒を造りたい」という思いを持った当地の農家445名により立ち上げられたとの事。
下関酒造には今年の盆に立ち寄ったんだが夏季休業中だったため、秋の福岡遠征時に訪問した次第。
なお本酒を購入した酒庵「空」は、蔵に隣接した直売所兼カフェの事だ。
開栓初日。
辛い。
とにかく辛い。
そして原酒ならではの度数の高さと相まって、なかなか飲みにくい一杯だと感じた。
そして面白い事に、口に含むと鼻の穴との接続部分では水のようなニュアンスが、喉の入口付近では辛味と苦味がそれぞれ感じられた。
開栓3日目には辛味が穏やかになり、飲みやすい辛口酒になった。
山の壽 純米吟醸 雄町 ★★★
福岡県久留米市 山の壽株式会社 720ml 1785円 住吉酒販@福岡県福岡市
創業は1818年(文政元年)。
広島でも甚大な被害が出た、1991年(平成3年)の台風19号で造り蔵が全壊し、酒造設備のほとんどが使えない状況に。
造りをやめるか否か悩んだ末、2年の休止を経て復活。
2010年には、山口合名会社から山の壽株式会社に組織変更し、現在に至る。
若い杜氏のキャラクターが話題になることも多いそうだが、実力は折り紙付との事。初訪の住吉酒販にて、つまみ不要の九州酒(酒だけで飲める酒)が欲しいとリクエストした際に「吟醸香が華やかで旨味が濃い」と店員から勧められて購入したのが本酒だ。
実際に飲んでみると、開栓直後の一杯目は店員のコメント通り。
しかし僕には少し濃い過ぎる。
しばし後、二杯目を飲んでみると、香りは控えめになり旨味も減退したせいか中濃程度となり、なかなかに旨い旨口酒になった。
開栓6日後に改めて飲んでみたが、冷やした状態では二杯目と印象変わらず。
残り1.5合程度は60度を少し超えるところまで温めて飲んでみると、隠れていた米の旨味がグッと前に出てきた。
少し冷めてくると鼻に抜ける辛味が感じられ、仕舞の甘みも感じられるようになった。
鷹来屋(たかきや)五代目 純米酒 ★★★
大分県豊後大野市 浜嶋酒造 720ml 1207円 うらの酒店@福岡県行橋市
五代目蔵元(兼杜氏):浜嶋弘文氏が、醸すお酒を「鷹来屋」と命名したのは1997年(平成9年)の事。
それ以前は「金鷹」という銘柄をメインとしていたそうだ。
「鷹来屋」という名称は、鷹が浜嶋家によく飛来してきていたことに由来するそうで、1889年(明治22年)の創業当時に屋号として考えられたとの事。
今現在は、完全手造り・全量槽しぼりで酒を造っており、年間の石高は400石程度。米の栽培にも乗り出すなど、当地の米と水で醸す酒こそが真の地酒との考えの下、酒造りをされているそうだ。
本酒は、熱燗にして米感が感じられる酒をとのリクエストに対してお勧めいただき購入した一本。
まずは常温で飲んでみると、しずしずと旨い酒という印象。
決して飲み疲れることはなく、いつまでも飲める酒だと感じた。
52度まで温めて飲んでみると、香りは穏やかなままで味わいがそのまま膨らみ、切れの良い旨さと辛味が強調された。
寒北斗 純米 ★★★
福岡県嘉麻市 寒北斗酒造 300ml 525円 道の駅いとだ@福岡県田川郡
福岡県のほぼ中央部に位置する嘉麻市大隈町。
数年前におすぎが「嘉麻市はなんであたしを呼んでくれないのよぉ」と発言した事を受け、町おこしとして「嘉麻飯」を売り出すなど、一部では注目度が高い街となっているようだ。
本酒を醸す寒北斗酒造は、1729年(享保14年)に玉の井酒造として創業。
喜久玉の井という銘柄一本で営業続けていたそうだが、1985年(昭和60年)に寒北斗がラインナップとして加わり、現在に至る。
寒北斗の由来となった北斗宮(北斗七星の神社)は、現在でも蔵の北東の小高い丘の上にある。
本酒は、旅の途中にふらりと立ち寄った「道の駅いとだ」で見つけて購入。
開栓直後は後口にポワンとした甘みが感じられ、食中酒として飲もうと思っていたので、一旦栓をして数日冷やす事に。
開栓3日目には、穏やかな辛味となかなかの米感に仕舞の切れが加わり、旨い酒だと感じた。
温めても常温でも良さそうではあるが、何分300mlしかない。
それらを試す間もなく、飲み切ってしまったのが残念だ。
北洋 純米 蜃気楼の見える街 ★★★
富山県魚津市 本江(ほんごう)酒造 720ml 1200円ぐらい 石川酒店@西区古江西町
本江酒造があるのは、魚津市の中でも日本海に近いエリア。
前面に日本海、背面に立山連峰を配すこの地に、1925年(大正14年)に創業した。
銘柄名の北洋とは、魚津港が鮭鱒船団で賑わう北洋漁業の拠点だったため、その隆盛にちなんで命名したとの事。
なお本酒の名前にもなっている蜃気楼は富山湾でよく見られるそうで、海の駅の名前やマラソンレースの名前にも用いられている。
本酒は味醂を買いに行ったついでに石川酒店で勧められて購入。
開栓直後は、丸みを帯びた米の甘みと上滑りする辛味のコンビネーションが特徴的で、仕舞の丸みもなかなか面白い。
二杯目以降は丸みが取れ、酸味が表出してきた。
飲み飽きしないタイプの酒だ。
秋の夜長には一升瓶を脇に置いて夜更かししても良いかもしれない。
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コメント
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一冊の本を読終えたかのような感動がありました。
すばらしい・・・!!の一語に尽きます。
蔵の景色、蔵の個性、酒の出来栄え等々・・・
あたかも、口に含んだような錯覚さえ感じました。
その風土、歴史、何より人の力、知恵の結晶。そういうものを頂けることを、喜びたいと感じさせていただいたレポートありがとうございます。
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コメントありがとうございます。励みになります。
このシリーズは、書くのが大変なんですが、備忘録兼日本酒のPRとして続けています。
お時間があれば、過去の記事も読んでやってください。