日本酒

2012年12月に家で飲んだ日本酒

日本酒
今月の掲載は8本。

年末年始に飲むための酒を仕入れた事も有り、そこそこの掲載本数となった。

掲載する酒については、ネットなどで得た情報や実際に見聞きした事を交えて蔵元の紹介に代えているが、調べてみると色々と面白いエピソードを見つける事もある。

例えば今月掲載分だと、「悦凱陣」の丸尾本店と高杉晋作の関係や「生もとのどぶ」・「百楽門」・「篠峰」の関係など、僕は知らなかったので非常に勉強になったし、このようなバックグラウンドを知った上で飲むと、なんだか味わい深くなるような気がする。

以前訪れたワインバーで、「古いワイン、例えば自分が結婚した年や子供が生まれた年のワインは、味わいとしては大して旨くないと思う。しかし、ワインが過ごした年月と自分が過ごした年月が重なっていると、その時にあった楽しい事やつらい事を思い出しながら飲む事ができる。あの時、あんな事があって大変だった。この頃は楽しかった。と言いながら飲むと、思い出がワインに深い味わいを与えて、おいしく飲むことが出来る。」的なことをマスターに言われたのを、今思い出した。

僕は古い酒を飲む機会は少ないが、同じことがバックグラウンドを知る事で起こるのではないかと思っている。

幕末が好きな方なら、「悦凱陣」に対して今までよりも少し思い入れが持てるのではないだろうか。「生もとのどぶ」が好きな方なら、「篠峰」に出会った時に少し馴染みを感じるのではないか。

そんな事の積み重ねで、人は酒を旨く飲めるようになるんだろうなと感じた。

 
 
 
(評価はなし~★★★★★まで。基準は個人の好みである。)

 
 
 
富久長 八反錦特別純米 無ろ過本生 ★★★ 東広島市安芸津町 今田酒造本店 720ml 1,470円 石川酒店@西区古江西町

 
富久長を醸す今田酒造本店は、瀬戸内海沿岸の安芸津町(東広島市)にある。

当地は、じゃがいもや牡蠣の産地として知られているが、実は日本酒の歴史において非常に重要な土地である。

 
かつては、旨い日本酒は硬水が出る地域に多かったそうで、灘もその恩恵を受けて酒処となったようだ。

軟水と較べて硬水の方が、発酵を促進するカルシウムが多く含まれている(広島県HPより)事が理由とされている。

 
明治の中盤以降、安芸津町の醸造家:三浦仙三郎により軟水醸造法が確立。

これにより独特の芳香と旨味を備えた広島の酒が全国から注目を集めるようになったそうだ。

 
さて本酒は、新酒目当てで訪れた石川酒店で、「つい先ほど入荷したばかり。」と聞き購入した次第。

本酒の香りは穏やかで、やや苦味を帯びていそうな雰囲気をまとっている。

実際に飲んでみると、何も邪魔しないソフトな味わいの中にもピンと芯が通った旨味が。

余韻も長く、これはさすがの旨さだと感じた。

一昨年よりも昨年、昨年よりも今年と徐々に旨くなってきている気がする。

 
ところで、富久長を飲むといつも思い出すことがある。とある居酒屋で富久長を注文した際に、店員から自信満々に「ふくながですね!」と訂正された事件だ。

いざ酒を持って来た時には、ばつの悪そうな顔で「ふくちょうでした。。。」と、一言添えてくれた。

あの時の顔は今でも忘れられない。

しかし、あれだけ自信満々に修正されると「俺が間違い?」と思ってしまうのは、人として芯が弱いという事なんだろうか。

 
 
 
賀茂泉 純米大吟醸 ★
東広島市西条上市町 賀茂泉酒造 500ml 1,312円 大和屋酒舗@中区胡町

 
賀茂鶴と共に酒処西条を代表する酒蔵、賀茂泉酒造。

その創業は1912年(大正元年)。

当時は前垣酒造場という社名で、銘柄名は地名の「賀茂」と山陽道の名水「茗荷清水」から想起して「賀茂泉」と名づけたとの事。

アルコール添加全盛の昭和40年ごろには純米酒の醸造に着手。

広島県産の酒米「八反」を60%まで精米し三段仕込で醸した「本仕込」のリリースにより、純米醸造のパイオニアとしてその名が知られるようになったそうだ。

 
最近、個人的に大手酒蔵(酒造メーカー)の酒を見直しており、その一環で本酒を購入した次第。

期待して飲んでみたんだが、香りはすっきりとミント系で味もミントっぽいすっきり感を伴う。

残念ながら、僕の一番苦手な味の酒だった。

 
これは劣化した酒の味ではないかという説もあるが、本当のところはどうなんだろうか。

とか書いた後に様子見で飲んでみると、ずいぶんとミント系のフレーバーが消えていた。

月単位で寝かして、変化を確認後に再度飲んでみようと思う。

なお、評価はあくまで現時点のものである事を念のために記しておく。

 
 
 
雁木 純米無ろ過生原酒 ★★★
山口県岩国市 八百新酒造 720ml 1,344円 石川酒店@西区古江西町

 
雁木を醸す八百新酒造は1891年(明治24年)の創業以来、山口県岩国市の市街地に蔵を構えている。

すぐ近くには五橋を醸す酒井酒造があるし、市街地から離れた山奥にはなるが、獺祭の旭酒造・金冠黒松(最近では日下無双か)の村重酒造・金雀の堀江酒造場もある。

平成24年の2月には岩国市の中心部である麻里布町で、この5蔵が一堂に会した酒祭りが開催されるなど、にわかに酒処の街として存在感を増している。

 
蔵の名前の由来は創業者:八百屋新三郎の名から取ったとは聞いているが、銘柄名の雁木は、おそらく近辺の川(今津川とか)の雁木と呼ばれる船着場(河岸の階段状の船着場で広島市内の川にもある)からきていると推察される。

 
さて本酒は新酒目当てで訪れた石川酒店で、こっちの方が旨いからと勧められて購入した次第。

新酒よりも旨味が強いというのが勧めた理由だそうだ。

 
開栓直後の瓶口からは、確かに旨味が濃いそうな香りが立ってきた。

実際に飲んでみると、濃い目の旨味で初手から仕舞までしっかりと楽しませてくれる。

カテゴリーで言うと中濃旨口だろうか。

中間所で感じられるブドウのニュアンスはなかなか面白く、僕の中の雁木のイメージを変える一本になった。

 
 
 
モンスーンPAVANE 玉栄 生原酒 ★★★★ 滋賀県甲賀市 笑四季酒造 720ml 1,600円 リカーランドマエカワ@呉市海岸

 
蔵については2011年12月の記事を参照のこと。

ちょうど一年前に当蔵の酒に偶然出会い、そのポテンシャルにワクワクした事を今でも覚えている。

 
今回は友人との飲み会が急遽決まり、そこに持参する酒として本酒を購入した次第。

彼らはずいぶんな日本酒党なので普通の酒ではつまらないし、かといって限定酒を入手できるほどのつてはないので、飲んだ事がないと思われる本酒に白羽の矢を立てた訳だ。

ちなみに今回購入したモンスーンは全部で4種類あり、それぞれにティエント・パヴァーヌ・シシリエンヌ・コーダ(全て音楽関係の言葉らしい)というサブタイトルが付けられている。

この辺りのセンスもなかなか面白いではないか。

 
開栓直後に瓶口から感じる香りは、青い果物を想起させる。

実際に飲んでみると、ぎゅっと凝縮した甘みが口の中で炸裂するが、飲み込んだ直後にふわっと甘みが消え、軽い酸味と苦味が仕舞に感じられる。

こんな甘みの消え方を経験したのは初めてかもしれない。

切れの良い甘口酒が好きな方ならつまみ不要でグイグイ飲めること間違いない。

 
恐る恐る温めてみると、今まで隠れていた米感が強く表出し、炸裂した甘さはコクにチェンジ。

個人的には温めたほうが断然旨いと感じた。

しかし、冷やした状態からの激変を楽しむという意味では面白いが、温めると強烈な個性は失われる。

久しぶりに興奮するほどの刺激的な酒だった。

なお同時に購入した五百万石コーダは福山で開栓したが、飲みすぎで記憶があいまいなため記事としてはアップせずにおく。

 
 
 
伊七 特別純米酒 無ろ過生原酒 ★★ 岡山県倉敷市 熊屋酒造 720ml 1,300円 石川酒店@西区古江西町

 
12月は新酒の入荷で品揃えが週変わりの石川酒店。

週に一度のペースで訪れると、大体入荷したての酒に出会うことが出来るのだが、今回も倉敷の伊七(いしち)という酒に出会うことが出来た。

 
伊七を醸す熊屋酒造は、JR倉敷駅から東南方向に直線距離で約8キロ離れた倉敷市林という地にある。

この地は、イザナミやイザナギを祀っている熊野神社(日本第一熊野十二社権現宮)がある事でも知られているそうだ。

 
蔵の創業は江戸中期の1716年。

この年は、8代将軍徳川吉宗が享保の改革を行った年で、歴史語呂合わせでは「いーないろいろ享保の改革」と覚えた記憶がある。

 
さて本酒は、旭鳳(広島市安佐北区)の前杜氏:板木氏が熊屋酒造で醸した酒の第一弾。

酒自体はまだ若く固いとの評だったが、ちょっと気になって購入した次第。

 
開栓初日。

瓶口から漂うのはセメダインに似た香り。

実際に飲んでみると、具合の良い米の甘みを感じさせるのだが、香りと仕舞にかけての苦味が飲みにくく感じさせる。

 
開栓後、1週間置いて飲んでみると、セメダインぽい香りは吟醸香にチェンジ。

味わいは旨い辛口酒のそれで、苦味や酸味も穏やかに。

やはり開栓直後は若かったということなんだろうと思う。

なお、昨日石川酒店に訪れた際に、次回入荷分はタンクが違うのでそこまで若くないと言われていた事を記しておきたい。

 
 
 
賀茂緑 純米 ★★ 岡山県浅口市 丸本酒造 720ml 1,071円 天満屋お土産プラザ@倉敷市

 
丸本酒造は、1867年(慶応3年)に丸本嘉之松氏が酒造業を創業し、その歴史が始まった。

二代目当主による台湾支店設立。

三代目当主の頃には天皇陛下のお茶の水に使われるほどの良質な湧水井戸を発掘。

四代目当主は一日一万本の瓶詰が可能になる瓶詰工場を新築。

このように見ると大手酒造メーカーが辿った道と同じに見えるが、1977年(昭和52年)には旧一級酒を全て本醸造に統一。

1986年(昭和63年)には醸造用糖類の使用をやめ純米酒の生産を拡大するなど、30年ほど前から量より質への転換を図ってきた。

現在は六代目当主の下、全量自家栽培米を使用することを目指しているとの事。

 
本酒は、福山に行く際に立ち寄ったアリオ倉敷内の土産コーナーで購入。

一角に岡山酒のコーナーがあり、広島では見かけない銘柄の酒をと思い購入した次第。

 
開栓直後。

つるっとした米の旨味に続いて、軽い甘みと酸味がバラバラで押し寄せてきた。

ちょっとまとまりがない印象だ。

二杯目からはそれらが一体となってまとまりのある味わいに。

辛口のスペックながら米の甘さが印象に残る酒で、なかなか旨いとは思うが僕の好みからは少し外れてしまう。

なお、この記事を書く時に初めて気付いたんだが、丸本酒造の酒は広島でも購入可能で、しかも僕が結構好みとしている竹林という銘柄だった。

いやぁ、蔵元の名前を失念していたとはいえ、驚いたなぁ。

 
 
 
悦凱陣 オオセト純米 無ろ過生 ★★★ 香川県仲多度郡 丸尾本店 720ml 1,733円 酒商山田@中区幟町

 
今から遡ること150年ほど前、幕末に活躍した高杉晋作は幕吏に追われ、当時親交のあった日柳燕石(くさなぎえんせき)を頼り、讃岐榎井村(現:香川県琴平町付近)に亡命。

燕石は自宅に晋作をかくまっていたが、やがて捕吏の手が伸び、晋作を別の場所に逃亡させた。

その罪により、燕石は高松藩獄で4年間を過ごす。

 
その時の逃亡先が燕石を兄のように慕っていた豪農:長谷川佐太郎の自宅。

じきに、晋作が隠れている事を捕吏が嗅ぎ付け佐太郎の自宅に押しかける。

佐太郎の妻の髪を引っ張りまわしその行方を尋ねたが漏らすことはせず、捕吏が立ち去った後、晋作は無事逃亡したとの事。

 
勤皇の志であった佐太郎のもう一つの顔が酒造家で、「新吉」という造り酒屋を営んでいたそうだ。

雨が少なく大きな川がないこの地方には大小多くのため池があり、中でも満農池(まんのういけ)は日本最大規模といわれている。

 
1854年(安政元年)の満農池決壊の際には、周囲の村々が水浸しになり佐太郎の酒蔵も倒れる等の被害を受けたとの事。

決壊後、農民は毎年のように干ばつの被害に悩まされていたが、それを見かねた佐太郎は修築工事するよう再三再四、役人に直訴。

1869年(明治2年)にようやく工事に着工し、竣工したのが1876年(明治9年)。

佐太郎はこの間多大な私財を投入し、無一文同然になってしまったが、酒番頭として働いていた丸尾忠太が屋敷はもとより酒の権利も買受け、佐太郎の晩年を支援した。

 
この丸尾忠太こそが、丸尾本店の初代である。

丸尾本店が醸す酒こそが悦凱陣であり、個人的には1、2を争うほどに好みの酒だ。

 
本酒は大晦日に飲むつもりで購入したが、フライングで30日に開栓。

冷たい状態で飲むと、グッと来る米の旨味がベースにあり、苦味・辛味・酸味が順序立てて押し寄せてくる。

濃醇とまではいかないが、旨々な酒だと思う。

 
燗にすると風味の膨らみは感じるものの、山廃ほどの変化は感じられず。

ここ何年も旨さを持続させている蔵なので、個人的にはこの方針を堅持してもらいたいと願う。

 
 
 
生もとのどぶ ★★ 奈良県宇陀市 久保本家酒造 720ml 1,500円 酒商山田@中区幟町

 
本酒を醸す久保本家酒造は、赤穂浪士の討ち入りがあった元禄15年(1702年)に創業した酒蔵で、その歴史は310年余りに及ぶ。

久保本家酒造から明治20年(1887年)に分家してできたのが「百楽門」を醸す葛城酒造、そして「篠峯」を醸す千代酒造は親戚筋なんだそうだ。

特に「篠峯」は僕の好きな酒の一つだが広島ではお目にかかる事が少なく、居酒屋の「KANPAI」で飲む事ができる位ではないだろうか。

 
そう言えば、以前友人が奈良県に住んでいる人は地元の酒の事を知らないと言っていたが、なんのなんの、奈良県は日本酒発祥の地にして、実力のある蔵が揃っている。

「久保本家酒造(生もとのどぶ)」「葛城酒造(百楽門)」「千代酒造(篠峰)」はもちろんのこと、「油長酒造(風の森)」「梅乃宿酒造(梅乃宿)」「大倉本家(大倉)」など、広島でも見かけることが出来、実際に飲んでみるとなかなか旨い酒ばかりだ。

 
さて本酒は、今までに何度も飲んだことがあるんだが、妻の希望により年末年始用の酒として購入し、大晦日に開栓。

白くにごった部分が瓶の底にたまっており、瓶口に近い部分は透明で上澄みと呼ばれている。

まずはその上澄みだけを飲んでみると、ややトーンの低い旨味とそれよりも抑えられた苦味が感じられる。

日本酒度+14という超辛口スペックで、その存在は感じるものの上澄みでは顕在化していない。

 
続いて濁らせて飲んでみたが、印象は大きく変わらず。

50度を少々超えるところまで温めてみると、味と香りは膨らみ酸味が出始めたものの、案外とさっぱりした味わいに留まっている。

本来は、もっとコクがある酒だと思ったんだが、これは年による違いなのだろうか、タンクによる違いなのだろうか。

 
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コメント

  1. だいちぱぱ より:
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    こんばんは。今回のラインナップも素晴らしいですね。
    私も是非買い求めたいと思います。モンスーンPAVANE名前もすごいですが味も期待できそうです。有難うございます。
  2. oomin より:
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    モンスーンは、実は貴釀酒なので甘いのは分かってたんですが、甘みの消え方が独特でした。凄く面白いお酒ですよ〜。
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