以前より、機会を作って酒蔵巡りをしている。
どちらかと言うとマイナーな蔵に行く事が多いだろうか。
蔵に行き、その周辺で地元の特産品を買い、家に帰って一献傾ける。
地の物と地酒が相性抜群かどうかは判別できないが、悪い気はしない。
これを読んでいる皆さんはおそらく日本酒好きだろうから、『銘酒』だけではなく、お住まいの地域にあるマイナーな蔵の酒も飲んでみて欲しい。
今が日本酒史上最も旨いと喧伝されているが、全国区の酒だけが旨味を吸うのではダメではないかと思う。
放っておいても売れる酒は入門者に任せて、皆さんには、ぜひ地味でマイナーな地酒を飲んでいただきたい。
意外と、しみじみ旨い酒に出会えるものだ。
さて今月の掲載は4本。
呉市音戸町の音戸の瀬戸が、意外にいけたのが収穫である。
(評価はなし~★★★★★。あくまでも個人の主観による評価である。)
◼️賀茂泉 純米吟醸生原酒 立春朝搾り ★★★
東広島市西条本町 賀茂泉酒造 1,800ml 3,150円 石川酒店@西区古江西町
蔵については、2012年12月の記事を参照の事。
本酒はここ数年来飲み続けているシリーズだが、予約して購入したのは初めての事。
昨年の出来が好みだったので、今年は一升瓶で購入してみた。
開栓初日。
品の良い飲み口で、甘さが前に出ている感じ。
昨年感じた、良い意味でのまとまりのなさは感じられない。
この日の夕食は塩分強めのイタリア料理だったので、相性としては悪くなかった。
これ以降は常温保存に変更。開栓2日目。初日に感じていた旨味が抜け、米麹由来と思われる良い香りと仕舞いの酸だけが目立つ。
熱々に温めていただくと、少し旨味が復活した代わりに酸はどこかへ行ってしまったようだ。
しばらくして温度が下がってくると、砂糖っぽいコクのある甘さが出始める。
45度程度まで下がると、米感たっぷりで仕舞いには甘さが。
さらに30度程度になると、米感が増幅しニヤニヤするほど好みのタイプに変身した。
昨年は燗では飲まなかったが、温度によりここまでの違いがあるとは面白い。
開栓3日目は旨味が戻り酸がさらに効いてきた感じ。
舌の上でころがして飲み込むと、燗冷ましで感じた米感の存在にほんのりと気付かせてくれる。
当記事執筆時点は、開栓から1ヶ月後。
ここまで来ると大きな変化はないが、最近は香りが良くない方向に変わってきた様に思える。
これは、さっさと飲んでしまえという合図なのだろうか。
◼️音戸の瀬戸 原酒 ★★★
呉市音戸町 藤岡酒造店 720ml 987円 リカーアイランドモアイ@江田島市江田島町
日本一短い海上定期航路が運航している音戸の瀬戸。
約300年の歴史を有する音戸渡船が運行している定期航路という名の渡船は、運行距離約120mと短く、1日の利用者数は2~300人との事。
何故に渡船?と不思議に思うだろうが、当地に架かるループ橋の音戸大橋は歩道がなく登坂距離が長いため、歩行および自転車では危険が多い。
そのため、現在でも渡船が継続されているそうだ。
料金は、調べたところでは大人70円・子ども40円でとても安い。
音戸町出身の城みちるや島谷ひとみもこの渡船に乗って移動していたんだろうか。
そんな音戸の瀬戸を擁する音戸町は、倉橋島の3分の1の面積を占める町で漁業が主産業。
牡蠣はもちろんの事、いりこやちりめんじゃこなどが有名である。
また平清盛ゆかりの地(音戸の瀬戸は清盛が切り開いたとされている)としても知られており、2012年に放送された大河ドラマ「清盛」の影響で音戸町も賑わったとか。
そんな音戸町に1854年に創業したのが、本酒を醸す藤岡酒造店である。
蔵の詳しいことはこれ以上分からないが、当蔵の酒は自身が経営するディスカウントショップ「リカーアイランドモアイ」でしか購入できないと聞いた事がある。
実際、本酒もモアイで購入したものだ。
開栓初日。
瓶口から立ち上がってくるのは、たおやかなバニラ臭。
実際に飲んでみると、アルコールのビリッとした刺激が強く、とにかく辛い。
これは何かと合わせてどうこうというレベルではない。
二杯目には辛さが少し落ち着いたものの、依然として激辛レベル。
初日を終えて冷蔵保管。
開栓2日目。
初日の辛さは随分と落ち着き、仕舞いの酸も感じられる様になってきた。
こうなると気づくことが幾つかあるが、最も意外だったのは、醸造アルコール添加系地酒原酒の嫌な所が少ない点だ。
つまり、意外と旨いということである。
しばらく置いてみるとどうなるだろうか。
冷蔵庫内で眠ってもらおうと思う。
◼️華鳩 わいわい村 ★★★
呉市音戸町 榎酒造 720ml 1,007円 リカーアイランドモアイ@江田島市江田島町
蔵については、2013年9月の記事を参照の事。
先に紹介した音戸の瀬戸と同時に購入。
華鳩は多くの銘柄を飲んできたが、本銘柄は初めて見かけたため購入した次第。
開栓初日。
常温で飲むと辛味が立つ印象で、仕舞いは軟水のように滑らかである。
スローフードジャパンのぬる燗部門で金賞を取ったと言うことだったので、早速温めてみた。
すると、多少の米感の膨らみがあり辛さが減退するものの、大きな変化は感じられない。
一旦、冷蔵庫へ。
開栓2日目。
少しとろんとした舌触りに変わり、旨味もとろりんとしている。
旨渋辛が同時に感じられ、残るのはピリとした辛味だ。
なお本酒の事について少し調べてみると、わいわい村は音戸町の遊休農地活性化事業として作られたそうで、約2,700㎡の遊休地に野菜と米を栽培しているとの事。
小学生の農業体験の場としても活用され、ここで取れた米で本酒は醸されている。
なおスペック的には純米だが、使用米の等級を満たしていないために純米とは名乗っていない。
※H25BYより等級を満たし純米を名乗っている。
以前「のづ酒店」で購入して飲んだハクレイ酒造の酒呑童子も同様の理由で純米を名乗っていなかったが、飲んで旨ければ肩書きはどうでも良いのである。
◼️月桂冠伝匠 純米吟醸 ★★★
京都府京都市 月桂冠 1,800ml 3,150円 大和屋酒舗@中区胡町
日本3大名醸地の一つ、伏見。
桃山時代にさかのぼると、伏見城の城下町として栄えた地域で、江戸時代には淀川水運の重要な港町や宿場町として栄えたそうだ。
現在では京都市11区の中で最大の人口を擁すとの事。
酒造業については、桃山丘陵から湧き出る豊富な地下水が酒造りに適していた事で盛んに行なわれるようになったそうだ。
少し調べただけだが、月桂冠・黄桜・松竹梅などの大手に加え、英勲・玉乃光・招徳・月の桂といった広島でも飲んだり買ったりできる銘柄の蔵がある。
当蔵は鎖国令が敷かれた直後の1637年に創業。
大倉治右衛門が興した蔵で、当時は玉の泉と言う酒を造る小さな造り酒屋だったそうだ。
明治以降は、樽詰めが主流の中で防腐剤なしの瓶詰めを発売したり、酒造研究所を作ったり、日本初の四季醸造に挑戦したりと、その歴史を振り返ると実にチャレンジスピリッツに溢れている事が分かる。
現在では300億近くの売上を誇る巨大酒造メーカーであり、竹中工務店・ロッテ・ミツカンなどと並び、非上場の大企業としても知られている。
さて月桂冠は、酒飲みが敬遠する大手酒造メーカーであるが、久々に立ち寄った大和屋酒舗で見つけてしまい、他の銘酒に目をくれることなく購入した次第。
一升瓶を買うとは、我ながら月桂冠に負けないチャレンジスピリッツを持っていると自負している。
開栓初日。
香りはフルーティと称する向きもあるようだが、僕には中低音域の旨味が想起される米の香りが感じられた。
実際に飲んでみると、純米吟醸の華やかさがほのかに感じられるが、日本料理に寄り添うような穏やかさと酒の旨味が同居した造りで、切れの良い酒質である事が分かる。
これを飲むと、大手酒造メーカーというだけで毛嫌いしてはいけないなと改めて反省してしまう程の出来栄えだ。
しかしながら、開栓2日目は事態が急変。
常温保管が良くなかったのか、辛くて渋くて味がバラバラに。
後口に残るのは、妙な調味料のような味わい。一体どうしたと言うのだろうか。。。
こわごわと開栓三日目。
辛さが前面に出たが、前日のあれは何だったんだろうかという位にまとまっている。
不思議だなぁ。。。
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